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音声から3Dキャラクターに命を吹き込む『DeepEmo』
原動力は”コンテンツ愛”と“納得感”

3Dゲームのキャラクター表情生成支援サービス DeepEmo

中村星斗

DeepEmoプロダクトオーナー

※本記事は、株式会社CAC identityが分社化する前の株式会社シーエーシー(CAC)新規事業開発本部時のインタビュー記事となります。

株式会社シーエーシー(以下、CAC)が提供する『DeepEmo』は、音声感情解析AIを活用して、3Dキャラクターの表情アニメーション制作を支援するサービスだ。

その仕組みは声優の音声を取り込んで解析し、9種類の感情にわけてそれぞれの強度を数値化する。さらにそのデータをもとに、3Dキャラクターの表情を自動生成するというものだ。

実際にスクウェア・エニックスから発売された『FORSPOKEN』の開発で活用され、表情アニメーターの工数を約95%削減することに成功したという実績も残している。

『DeepEmo』の現在と未来、そしてこの事業に懸ける思いを探るべく、プロダクトオーナーの中村星斗にインタビューを実施。ゲームにとどまらないエンターテインメントの可能性、その開発者や制作者へのリスペクトとともに、『DeepEmo』の裏側を明かしてもらった。

これまでの経歴を教えてください。

中村

2018年にCACに入社して、企業のリサーチ、カスタマーサポートなどのプロジェクトを担当しました。4年目に縁があって長崎県の雲仙市に出向し、自治体のDXなどに携わりました。

雲仙市で3年過ごしたあと、2024年に東京に戻り新規事業開発本部の事業に専念しました。CACのなかでメインストリームのキャリアを歩んではいないのですが、幅広くいろいろなことをさせていただいていると感じています。

大学は商学部だったと伺いました。CACへ入社した経緯を教えてください。

中村

商学部マーケティング学科なので、もう“ド”がつくほどの文系でした。就職活動においては、旅行業界や飲食業界、シロアリ駆除の会社といったところまで幅広く検討したのですが、CACの「文系でもITができます」というワードに半ば騙されて入りました(笑)。もともとものづくりが好きだったので、将来に生きるスキルが得られると思ったことも決め手になりました。

実際に入社してみて苦労はありましたか?

中村

数字が苦手だったので、キャッチアップには苦労しました。技術を勉強しながら実際にいろいろな資格を取りましたが、その過程でたくさんのことを吸収できました。ITというと理系っぽいですが、クライアントから要件を引き出すといったコミュニケーションも重要です。そういった部分は大学で学んだことが生きているので、文系で良かったと思ったりもします。

雲仙市での経験を経て、どういった経緯で新規事業開発本部へ配属されたのでしょうか?

中村

もともと20%ほどは新規事業開発の業務をしていました。東京に戻ってからは新規事業開発の業務に専念して、まずはいろいろな業界の課題を探索するところからスタートしました。そのなかで音声感情認識AIのEmpath事業推進室(当時、現在は感情解析事業推進室)で室長されている下地さんから、「Empathの技術をゲーム開発業界向けに展開してみないか」と打診を受けたことで『DeepEmo』がスタートしました。

どういったところからスタートしたのでしょうか?

中村

もともと『Empath』はコールセンター向けのサービスで、会話の品質評価や、今問題になっているカスタマハラスメント(必要以上に怒気のあるクレーム)などを検出してオペレータへのケアを行う、といった形で活用されていました。

そのなかでスクウェア・エニックスさんから問い合わせがあり、『FORSPOKEN※』という作品で音声解析をもとに3Dの表情アニメーションを制作するという形で転用されて、実際に表情アニメーターの工数を約95%削減することに成功しました。

DeepEmoを利用した『FORSPOKEN』での表情デザイン作業画面
© 2023 SQUARE ENIX CO., LTD. All Rights Reserved.

スクウェア・エニックスさんに活用いただいたのが2022年後半だったのですが、当時の『Empath』は営業活動をコールセンターに絞っていたこともあり、この技術と実績を次につなげることができていませんでした。そこで、2024年夏に私がプロダクトオーナーとしてバトンを受けて、市場調査やソリューションとして販売できる体制の整備をすることになりました。

※FORSPOKEN:スクウェア・エニックスが2023年1月24日に発売した魔法アクションRPG。PlayStation 5やPCでプレイすることが可能。

プロダクトオーナーに就任してからの半年強で、どういったことに着手したのでしょうか?

中村

『DeepEmo』の要素技術はあるけど、『DeepEmo』を作った開発者しかそれを動かせない状態だったので、再度現在の環境にあった最適な方法で動かせるようシステムの再構築に着手しました。あとはゲーム業界全体のこともそうですし、ゲーム開発の現場やツール、プロセスについてもわからないことだらけだったので、知識を蓄えることも行っていました。

ゲームは好きでよく遊んでいるのですが、その裏側のことはまったくわらかなくて……。ネットで調べたり、本を買って読んだりするだけでは限界もあり、業界への理解が深まらないことが一番大変でしたし、今もわからない用語が出るたびに勉強しているところです。

ネットや書籍以外からの情報収集も行っていたのでしょうか?

中村

雲仙市に出向していた際に、ゲーム開発をされている方と知り合う機会がありました。東京と長崎を行き来している方なので、東京に来たときに時間を取ってもらい、制作フローや使用ツールを解説してもらいました。それがブレイクスルーだったと思います。

基礎が理解できたことで、知識もより吸収できるようになりました。あとはゲームショウやインディゲームクリエイターの勉強会に足を運んで話を聞いたり、自分で実際に3Dのキャラクターを作ったりしました。ちっちゃなアバターを作っただけ終わったんですけど(笑)。

開発者へのヒアリングを進めていくなかで『DeepEmo』の可能性は感じましたか?

中村

そうですね。改めて『FORSPOKEN』で実際に使っていただいたゲーム開発者の方と話した際に、「誇張じゃなく工数が95%減った」「効率化できて良かった」と言っていただきました。その言葉は、私の中で、『DeepEmo』が価値のあるソリューションだという確信につながっています。

先ほどご自身もゲームをプレイするとおっしゃっていました。ゲームは昔から好きだったのでしょうか?

中村

はい。今もたくさんやるんですけど、中学校までは家がゲーム禁止だったんです。目が悪い家系で、理解はできるんですけど。ただ、私の中学時代はゲームボーイカラー、ゲームボーイアドバンスなどで名作ゲームがたくさん出ている時代なので、ゲームができなかったフラストレーションも大きかったです。周りがゲームで遊ぶなか私は遊べなかったので、貴重な青春時代が奪われたと(笑)。

みんなこぞって『ポケモン』を遊んでいる時期でしたよね。

中村

そうですね。今はその反動で、青春時代を取り戻すかのようにゲームをやっています(笑)。中学校以降は『モンスターハンター』シリーズにハマったり、今も終業後にPCでFPSをやったりしますし、モバイルゲームもやります。最近は友達とゲームを一緒にするというようなことも減ったので綺麗なビジュアルやストーリーに力を入れているRPGを1人でやりこむなど、いろいろなジャンルのゲームを遊んでいます。

ゲームのユーザーと開発者はすごく隔たりがあると思います。開発者の方々と関わるなかで変化はありましたか?

中村

ゲーム開発者の方々のものすごい熱量と技術力に接して、より深くゲームを楽しめるようになりました。例えば表情アニメーションでは、目や鼻や口といったパーツを感情的に、自然に見えるように制御しつつ、人間のような目線の動かし方や瞬きにも同時に注意を払っています。モブキャラでも、メインプレーヤーの動線を意識した配置をして、メインプレーヤーを探すアクションも楽しんでもらえるよう工夫されていたりします。

私はバックパッカーとして海外を回ったことがあるのですが、言葉がわからなくても同じバックパッカーの人たちとゲームでつながる瞬間があって、それを思い出すと、世界中にゲーム開発者の熱量が届いていることに改めて感動します。

ゲーム開発者の熱量に感化される部分もありそうですね。

中村

ゲームは、今では十分な市民権を得ていますよね。しかし私の子どもの頃は、悪いものとみなされていたと思います。「ゲームばかりやっていたら勉強ができなくなる」とか「人生はゲームみたいにリセットできない」とか。そういう話を何回も聞かされました。

それでもゲーム開発者の方々は「もっとおもしろいもの、人の心を震わせるものを作ろう」といった信念を持って奮闘されてきたんだなと思います。。その熱量は、スタートアップとか新規事業開発を進める人たちと似たところがあるとも感じています。

『DeepEmo』が今後のゲーム開発にどういった影響を与えると思いますか?

中村

ゲーム業界は多言語化、高コスト化、高速化が進んでいると感じています。コンテンツがグローバルで遊ばれていること、ハードウェアの進化によってハイクオリティのグラフィックを求められていること、今は中国や韓国のメーカーの勢いもあり、開発スピードを速めていく必要があることが主な理由です。それらの課題に対して、効率化という手段で対応するときに、『DeepEmo』が一つの選択肢になってくるんじゃないかなと思っています。

大規模タイトルで95%の工数削減という数字はインパクトがありますよね。

中村

はい。でも、やっぱり熱量の高いゲーム開発者が手作業で丁寧に作ったゲームがいいに決まっていると思うのです。そういったこだわりがこれまでの熱狂を生んできたと思うので。それを理解した上でビジネスとして考えたときに、先ほど挙げたような課題に対処していくために『DeepEmo』を使っていきましょう、といった形になったらうれしいと思います。

(ゲーム開発者という)裏方の(ゲーム開発者を助ける)裏方としての役割です。そうしてゲーム開発者が質の高いコンテンツを早く、また安く提供できるようになればゲーム業界の発展につながると思います。

新規事業開発にとって重要なことはなんだと思いますか?

中村

納得感を持って進められるか、ということかなと思います。解決できそうな課題があったとしても、それを新規事業としてやるべきだという納得感を持てないと、壁にぶつかったときに疑問が出てくると思います。

課題、市場の規模、コスト、そういった要素を踏まえて「自分はこう思う。だから進められる」という納得感を持てるかが一番重要なのではないかと思います。周りを見ても、成功した事業にはいろいろな意味で納得感があると感じています。

熱量やモチベーションとは少し違うイメージでしょうか?

中村

少しニュアンスが違うんですよね……。熱量やモチベーションというより、もう少し冷静な視点を持っている感覚に近いです。「やりたい」という情熱よりも、「やるべき」という客観的な視点を大切にしています。もちろん、熱量は素晴らしいものですが、強すぎると視野が狭まり、周りが見えなくなってしまうこともありますので。

ただ、事業を進めるにはエネルギーも必要なので、ただ冷めているわけではなく、「納得感」を持って取り組むことが、自分にとってしっくりくる表現だと感じています。

『DeepEmo』を通じてどんな社会になっていってほしいと思いますか?

中村

まず、今後の社会にとって「感情」は重要なキーワードになるんじゃないかなという予感があります。AIの発展によって、ホワイトカラーの仕事がなくなるといった悲観的な見方が多いですが、もしそれが本当で、仕事が減るならば、人間は文化や芸術、エンターテインメントにより時間を使うような時代が来ると思います。

そうした時代において、『DeepEmo』やCACが持つ別の感情解析技術を生かして、心が動くコンテンツをたくさん生み出せたらいいですね。

この『DeepEmo』は3Dキャラクターの表情アニメーション作成を助けるというピンポイントのソリューションですが、ゲームに限らず、キャラクターに命を吹き込む作業の裏側に私たちCACの技術が使われて、ゲームやアニメなど、私が小さい頃も今もワクワクしているようなものがより多く世の中に出るようになったらいいなと思います。

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